PROJECT STORY

どんな運転状況でも騒音値50dB以下を実現する
~業界初の静音発電機「Malie(マーリエ)」誕生秘話~

工事現場やイベント会場などの屋外で目にすることが多い発電機は、ある程度音がしても仕方ないと思っている人も多いのではないだろうか。しかし、デンヨーは1966年の騒音防止装置の開発以降、業界に先駆けて低騒音に取組んでいる。近年も無負荷時の騒音を61dBに抑えた「超低騒音型発電機」、51dBに抑えた「極低騒音型発電機」を相次いで開発してきた。そして、更なる性能アップを図るため、負荷時、無負荷時を問わず、どんな運転状態でも騒音値50dB以下の実現を目指したプロジェクトが、2014年11月にスタートした。今回は、その開発のメイン担当者に話を聞いた。

静音発電機
Yさん
開発メイン担当

Yさん
海外営業戦略室
1998年入社
理工学部機械工学科卒

更なる“静寂”を求める声に応えるために

デンヨーは以前から機械の防音対策に力を入れており、極超低騒音型エンジン発電機といった極めて騒音の少ない製品も一早く世に送り出しており、好評を博していた。しかしエンジンを動力源としていることもあり、夜間の静かな住宅地での工事現場やイベント会場などではどうしても騒音が気になる。もっと静かな製品はないかというお客様の声もあった。そうした声に応えるために、更なる防音技術の確立を目指した研究開発チームが2014年11月に結成され、4名のメンバーが選ばれた。しかし、そこにYさんの名前はなかった。
当時Yさんはアメリカに駐在して現地での機器のカスタマイズなどの対応をしていた。しかし、新製品開発チームが一次試作機を完成させたタイミングで、開発のメイン担当がある事情で異動せざるを得なくなったのだ。ちょうどその時期にYさんが日本に帰任。Yさんに白羽の矢が立ったのである。一次試作機を目したYさんは、静音が実現できるという確信を持つと同時に、解決しなければならない課題が多いことも感じていた。

静音を実現するための様々な工夫

「低騒音化をするためには、当たり前のことですが、機械内部の音を外に漏らさないことが最重要ポイントになります」
その当たり前を実現するために、従来にはない発想で工夫をしていかなければならない。機械を覆うボンネットを二重構造にすることで騒音を低減するほか、防音装置(マフラーとレゾネーター)を2連化することで、さらに騒音の低減を可能にした。最も苦労したのはエンジンの冷却だという。
「エンジンファンをなくし電動ファンを使用することは、早い段階で決定していました。ただ、吸気を制限しすぎるとエンジンの冷却が成り立たなくなってしまい、機械そのものが熱でやられてしまう。どのようにバランスをとるか、冷却性能と騒音性能の両立が一番苦労しました」
Yさんは何度もトライアンドエラーを繰り返し、ラジエターを大きくすることで最適なバランスを実現していった。そして二号試作機を完成させた。

Yさん

社内審査、そして量産化決定へ

研究開発がスタートしてからちょうど2年後の2016年11月、二号試作機は社内審査にかけられていた。テーマである騒音値は負荷時で49dBと、目標の50dB以下をクリアしていた。そして、無負荷時では43dBという数字を実現していた。これは図書館内に匹敵する静かさだ。もちろん量産化へ向けてのゴーサインが出た。しかし、量産化するための課題もあった。それはコストである。
「少しでもコストダウンできるところはないかを毎日のように考えていました。生産ラインでの効率化も考え、生産技術と連携して図面を何度も修正していきました」 そうした問題をクリアした上で、スライドドアを採用するなど、営業からの要望を取り入れた、外観もスタイリッシュなほぼ完成品に近い三号試作機が、2017年1月完成。社内審査を経て、2017年7月の新製品発表会に出品することになった。そして、お披露目する新製品の名は、静音発電機「Malie(マーリエ)」と決まった。

期待と不安で臨んだ新製品発表会

騒音値に関しては絶対の自信を持っていたが、不安もあった。それは可能な限りコストダウンを図ったが、どうしても従来製品よりは高い価格とならざるを得なかったことだ。また、ラジエターを大きくし、ボンネットを二重化したこともあり、これまでの製品よりボディが大きくなった。Yさんは、その辺りをお客様がどう評価するかを気にしていた。もし、お客様の評判が芳しくなければ発売延期となる可能性もあり、他社に先駆けて製品を世に送り出すことができなくなるかもしれない。うれしいことにそんなYさんの心配は杞憂に終わった。
「発表会では、お客様からいろいろな質問をいただきましたし、その場で受注につながったケースもありました」
Yさんは喜びをかみしめると同時に、開発メイン担当者としての責任を果たしたという安堵の気持ちで一杯だった。

Yさん

評判が広まり、ブラインドサッカーの会場で採用

静音発電機「Malie(マーリエ)」は、その後も口コミなどで評判が広まり、ゴルフのトーナメント会場で使用されるなど、地道に売上げを伸ばしていった。そして、ブラインドサッカーの大会会場で採用されたのである。ブラインドサッカーは視覚障害者のスポーツで、ボールの中に入っている鈴の音を頼りにプレーをする。プレー中は観客席も音を立てないように細心の注意を配る。そんな会場で採用されたことは、静音発電機「Malie(マーリエ)」の性能がいかに高いかの証明に他ならない。

プロジェクトチームは解散したが

静音発電機「Malie(マーリエ)」の成功で今回のプロジェクトチームは解散した。しかし、お客様のニーズは時代とともに変化し、技術進歩のスピードはますます加速している。近い将来、さらに静音で小型の発電機が開発されているかも知れない。
今回、開発メイン担当者だったYさんは現在、海外営業戦略室で海外戦略を練っている。海外営業戦略室は、グローバル化が進む中で、お客様がどのような製品を求めているのか実際にその国へ行き、生で見て、生の声を聞き開発部門へとつなぐ役割を担う部署として、2018年4月に新設された。そこで新たなミッションに挑むYさんは、これから世に出ようとしている学生に向けて、
「発電機は様々な用途があり、世界中で使われています。そして、その可能性はまだまだ大きい製品です。デンヨーは若いうちから色々な形で製品開発に携われますし、当社製品は国内シェアが高く街中の工事現場等ではよく見かけることができます。自分が関わった製品を見るととても嬉しくなります。一緒に頑張りましょう!」
という言葉で締め括った。